1998年12月の窓販解禁以降、公的年金への不安感や投資リスク許容度の高まりを背景に、富裕層のみならず幅広い層から銀行による投信・保険などの窓販への期待が寄せられている。そこで本稿では、限られた経営資源の範囲で、できるだけ多様な顧客満足を提供し、自行のフィービジネスとして利益ある成長を実現するための「窓販マーケティング」について言及する。
1.顧客志向型の窓販マーケティング
事業は、お客様に選ばれ続けることが何よりも大切である。そのことを踏まえ、マーケティング戦略は、すでに自行窓販の投信・保険等を購入されたお客様(既存顧客市場)と長くお付き合いするための「顧客維持」(リテンション・マーケティング)と、まだ自行窓販の投信・保険等を購入されていないお客様(潜在顧客市場)とのお付き合いをスタートさせるための「顧客獲得」(アクイジション・マーケティング)の2つに主眼を置いている。【図1】
【図1】顧客志向型の窓販マーケティング
この2つのマーケティングは固有の目的を果たすと同時に、互いに支えあう関係にもある。リテンション・マーケティングは、まず既存顧客による口コミ増大によって顧客獲得を支えている。また既存のお客様の顧客特性を把握することで、自行と最も相性のよい潜在的なお客様の予測に役立つ。一方アクイジション・マーケティングは、顧客維持の機会を創ることで、リテンション・マーケティングを支えている。
2.顧客志向型ROI
仮に「顧客維持」と「顧客獲得」のマーケティングが功を奏し、お客様に選ばれ続けたとする。しかし、投資を上回る収入(手数料収入等)によって利益を上げなければ、事業は存続できない。そこで顧客満足と利益ある成長をバランスよく図るために、マーケティング戦略に対応した顧客志向型ROIが貢献する。【図2】では、顧客獲得・維持に関わるROIが事業全体のROIに結びついている様子を表している。(本稿で用いる数値はすべて仮の数字です)
【図2】顧客志向型ROI設定
顧客獲得ROIは効果測定の観点から、収入を「お客様の初回購入で発生した収入」に限定するため、ROIはマイナスとなりがちである。顧客維持ROIは、収入を「お客様のリピート購入で発生した収入」に設定するため、ROIはプラスになることが多い。しかし一般論は踏まえつつも「自行の場合は、どのようなROI数値が適切か?」を検討することがとても大切である。それでは次にROIの「投資」と呼ばれる項目について話を進める。
3.マーケティング投資
マーケティングは、コストではなく投資である。
その理由は、コスト概念ではお客様から得た生涯に渡る利益に貢献しうる積年の営業効果などを説明しにくいことにある。つまり「持続的な顧客満足に貢献する営業・販売施策とは何であり、それにいくら投資すれば安定した利益を確保できるのか?」という設問に答えるための投資計画の策定・実行・検証が必要となる。では、窓販におけるマーケティング投資とはどのようなものを指すのか?【図3】では、3つの側面からマーケティング投資を分類している。
【図3】マーケティング投資
<1.顧客接点投資>
窓販の顧客接点としては、渉外や営業店スタッフなどの人的接点・店舗環境・コールセンター・インターネットなどが挙げられる。顧客接点投資はこうした接点の維持・向上によって顧客満足に寄与する。
<2.専門性投資>
特に投信や保険等の金融商品は、単に顧客接点を維持するだけではなく、顧客の期待を上回る専門性に基づくカウンセリングが顧客満足や競争力の源泉となりうる。スタッフへの教育はもとより、より高度な専門性を有するスペシャリストの養成や外部からのスペシャリスト調達も専門性投資に含まれる。また顧客の立場にたった資産運用相談ノウハウを支援する情報システム構築も専門性投資に含まれる。
<3.販売促進投資>
商品を販売する顧客接点が維持されていても、お客様がその存在に関心を持たなければ収入・利益は見込めない。そこで初回購入やリピート購入を促す仕掛けとしての販売促進投資が求められる。資産運用セミナーの開催・PRや各種広告・DM、商品販売時のディスカウントやインセンティブ、お客様の維持・深耕・紹介を目的としたロイヤリティ顧客向けイベント・各種インセンティブを核としたプロモーションなどは販売促進投資に含まれる。
こうした分類の目的は「顧客満足と安定した利益にインパクトを与える重要投資は何であるか?」を見定めることにある。重要投資を核に顧客からの収入機会を拡大するか、もしくは無駄な投資を削減すれば、限られた投資額において顧客満足を最大化でき、その結果絶対利益額もROIも高まることとなる。それでは次に、顧客志向型ROIに基づくリテンション・アクイジションの2つのマーケティング業務について言及する。
4.リテンション・マーケティング(顧客維持)
限られた投資額で、既存顧客の満足と利益を最大化することがリテンション・マーケティングの目標となる。投資額が上限なく許されるのであれば、より大きな顧客満足が提供できるが、利益が上がらなければ事業が継続できず顧客にも迷惑がかかるため、やむを得ず【図4】のような既存顧客ポートフォリオを策定することとなる。
【図4】既存顧客ポートフォリオ
このポートフォリオは、Capacity(キャパシティ)とLoyalty(ロイヤルティ)という2つの軸から成り立っている。実際に用いるためには、2つの軸から導き出される数値指標を設定する必要がある。ここではCapacity指標として「顧客の投資可能額」、Loyalty指標として「顧客の投資可能額に占める自社取扱商品シェア」を用いている。顧客の投資可能額とは、元本割れリスクを負ってもリターンを求める投資に回せる金額を示し、お客様の金融資産規模やリスク許容度などによって決定されると思われる。
一方、顧客の投資可能額に占める自行取扱商品シェアは、投資可能額に占める「自行:その他」の比率によって求めることができる。仮に情報入手度が高まり検証が行われれば、より適切な指標も得られると思われる。しかし現実には情報入手にかかる時間や費用の関係から、当初はある程度適切さを犠牲にして入手可能な情報で算定できる指標を用い、お客様との関係作りを通じて情報入手度を高めながら、より適切な指標を得ようとするアプローチがとられやすい。
さて2つの指標に基づいて4つの顧客タイプに分類された。次に限られた投資額のなかで、各々の顧客タイプの満足と利益を最大化するための【図5】のようなリテンション・マーケティング投資計画が策定される。
【図5】リテンション・マーケティング投資計画
この計画では顧客タイプ別のROI目標を設定し、投資額全体を先ほどの3つの投資分類と顧客タイプ別に配賦している。例えば顧客タイプ1のお客様にとって専門性の高い資産運用スペシャリストによる相談がより多額の金融商品購入を強く動機づけるとすれば、顧客タイプ1への専門性投資をより大きくしたほうが収入拡大による利益とROI増大に貢献するであろう。
また顧客タイプ4のお客様にとって、人的顧客接点より人を介さないインターネット顧客接点のほうが気楽に継続購入を図りやすい場合、顧客タイプ4における人的な顧客接点投資をインターネット顧客接点への投資にシフトすることで、中長期的には投資の軽減が図れるかもしれない。このように自行にとって最適な投資計画を策定・実行・検証するプロセスが関連するキーパーソンと繰り返されれば、実行段階における組織能力が最高に発揮されやすくなる。
5.アクイジション・マーケティング(顧客獲得)
限られた投資額で、将来利益に貢献しうる潜在顧客を気持ちよく初回購入に結びつけることがアクイジション・マーケティングの目標となる。顧客獲得においても【図6】のような潜在顧客ポートフォリオを策定するが、先ほどの既存顧客ポートフォリオと若干異なる。
【図6】潜在顧客ポートフォリオ
その理由は、顧客獲得経路が純粋な顧客獲得と既存顧客からの紹介による獲得に分かれることにある。紹介による獲得はアクイジション・マーケティングのROIを高める上で特別な影響をもたらすため、別立てで管理したほうが望ましい。
一方、純粋な顧客獲得についてはCapacityとLoyaltyのコンセプトに基づきCapacity指標として「顧客の投資可能額」、Loyalty指標として「顧客の元本割れリスクのない預金額に占める自行シェア」を用いている。仮に顧客の元本割れリスクのない預金額が500万円として、そのうち300万円が自行に預けられているとすれば、シェア60%ということである。ただしこの指標は、元本割れリスクのない預金額に占める自行シェアが高いことは、預け先としての信頼の証であり、その結果投信・保険などの金融商品の初回購入率も高まるという仮説に基づいたものである。
よって検証した結果、自行シェアと獲得率に高い相関がみられなければ、より適切な指標を再検討すべきである。より適切な指標を得る手段として、リテンション・マーケティングによる既存顧客の顧客特性や初回・リピート購入履歴の分析から得られる事実が有効である場合も多い。
さて、CapacityとLoyaltyに基づく顧客タイプ分類を終えると【図7】のアクイジション・マーケティング投資計画の策定に進む。
【図7】アクイジション・マーケティング投資計画
この考え方については、先ほどリテンション・マーケティング投資計画と同様のため省略するが、一般にはCapacityが大きいお客様ほど初回購入から比較的高収入が見込める傾向にあり、Loyaltyの低いお客様ほど特に販売促進投資が多くかさむ傾向にある。こうした一般論を踏まえつつ「自行の場合はどうすべきなのか?」という建設的な疑問を持ちつつ、投資計画が検討されれば有効性が増すものと思われる。
6.顧客獲得のプロモーション(販売促進投資)
それでは最後に、渉外や営業店を窓口とした当面の顧客獲得を進める上でのプロモーション(販売促進投資)について触れる。【図8】では、プロモーションの分類とプロモーション例を示した。
【図8】顧客獲得のプロモーション(例)
<1.プレミアムプロモーション>
景品などを付けることで、新規購入を動機付けるプロモーション手法をさす。景品の選定にあたっては「いま話題の○○」「投信/保険にちなんで○○」といった問いかけから連想されるアイデアを複数人で話し合いながら、効果的と思われる景品を選定するとよい。
また「抽選にするか」「もれなくにするか」といった選択肢についても景品表示法などを参考に、検討を進めることが望ましい。
<2.プライスプロモーション>
手数料割引・金利優遇等といった実質的な値引きを伴うプロモーションである。価格や割引率の表示に、インパクトを持たせることが大切である。例えば、複数の金融商品で手数料の割引率が違う場合でも、そのなかで最大の割引率を前面に出して「申込手数料を最大50%OFF」といった表示を行う。(店舗等で見かける価格表記を参考にするとよい)また、投信/保険以外の自行金融商品を値引き対象にすることも投資に見合うリターンが見込めれば、検討の余地はあるように思われる。
<3.サンプリングプロモーション>
消費財においては商品サンプリングという形で、よく用いられるプロモーション手法である。投信/保険の場合は「毎月分配型の投信をはじめたら、毎月のお小遣いが楽しみで仕方がなくなりました。」といった既存顧客の声を「金融商品の試用感」という形で潜在顧客に訴求する手法と解釈するとわかりやすい。投信体験リポーターを募集して、リポート内容をパンフレットやネットで発信し、渉外や営業店のセールストークで活用することも例として挙げられる。
<4.システムプロモーション>
会員組織やサービスによる制度的な動機付けによるプロモーション手法をさす。
すでに資産運用に関するセミナーや診断などを実施していたとしても「資産運用無料カウンセリング実施中」「資産運用無料診断サービス実施中」と、あえて"サービスの無料提供"を潜在顧客に店頭・各種広告で告知することで、間接的ではあるが購入への動機付けに貢献しうる。
以上が顧客獲得プロモーションの概略である。
特にプレミアムプロモーションとプライスプロモーションは「期間限定キャンペーン」という体裁をとると瞬間的な獲得効果が得られやすい。しかしこれらのキャンペーンが常態化しすぎると、実質的な価格破壊を自ら招き、利益額やROIの低下につながる恐れがある。よって顧客獲得プロモーションは、全体的なマーケティング戦略とのバランスを常に考えながら行うことがとても大切である。
◎執筆:ジェイコンサルティング代表 桑畑 穣太郎【月刊金融ジャーナル 臨時増刊号 銀行窓販戦略2006掲載】
顧客志向型 窓販マーケティング【月刊金融ジャーナル 臨時増刊号 銀行窓販戦略2006掲載】


