2005年はクレジットカードにとっても歴史的な年となったようである。おさいふケータイの普及やケータイ内でのEC環境の充実に後押しされ、「習慣消費市場」が、かつてない変貌を遂げることが確実な状況となったからである。本稿では、近未来の現実を先読みし、新たな時代にふさわしいクレジットカードのブランド価値について言及する。
1.近未来の現実
2005年体制。そうした報道に象徴されるように、日本の構造は変貌しそうである。戦後60年、還暦という言葉そのままに、歴史は一回りしたように思われる。【図1】はその概略を示しているが、なかでもポイントは人口増加メカニズムが、人口減少メカニズムに移行することにある。
【図1】日本の構造変化
戦後の日本は、人口増加メカニズムに支えられ、GDPの継続成長を担保に、中央集権型の政治・組織統治が確立された。経済でも市場拡大のなかでの「シェア争い」という競争経済が確立された。
しかし、人口減少メカニズムに移行すると、進化の指標は、GDPから付加価値率へと変わることが予測されている。政治・組織統治は、中央集権のスリム化(小さな政府)により、地域・個人に自律的な活性化や共創を委ねる段階に入りつつある。またITの発達は、これまで血縁・地縁・職縁といった依存的コミュニティに限定された社会を、自らの意思で気軽に開拓できる「自律型ネットワーク社会」へと進化させつつある。このような状況のなかで、マーケティングもまた新たな構造を形成しつつある。「リーチ or リッチネス」から「リッチネス and リーチ」への移行である。
2.ITの発達による経済性の進化
【図2】では、リーチとリッチネスの関係が、従来の構造から新たな構造へ進化する様子を表している。リーチとは対象となる人数、つまり「幅」に関わる要素を指し、リッチネスは、情報密度・カスタマイズ性・インタラクティブ性といった「深み」に関わる要素を指す。
【図2】ITの衝撃
従来の構造では、リーチとリッチネスはトレードオフの関係にあると見られていた。例えば、プレミアムカードのようにリッチネスを追求すると、専用のデスクによるきめ細やかな応対や物理的制限・希少性が高い会費を払う意味と見なされたため、リーチの規模を限定せざるを得なかった。その一方で、一般カードのようにリーチを追求すると、投資効率の関係で、リッチネスを妥協せざるを得なかった。
しかし、こうした従来の構造は、ITの発達によって変わりつつある。バーチャルな世界では、インタラクティブ性とカスタマイズ性を維持しながら、密度の高い情報を生活者と共創しうる環境が急速に整いつつある。アマゾンはその先駆者であるが、ここから学べることは、リッチネスが希少性のみに依存するのではなく、生活者がサービスインフラに自律的に関わることによって、自らが望むリッチネス(例えばアマゾンのレコメンド機能)を共創できるという事実である。すなわち「リッチネスの多様性」【図3】を従来の構造と比較して、ローコストで実現したということである。しかしITで解決しがたいこともあるため、依然としてリーチを絞るほどリッチネスが豊かになるという原則は残るが、その格差はかなり緩やかになることが想定される。
【図3】リッチネスの多様性
従って、リッチネスの多様性をITの活用によって、幅広いリーチと共創する考え方(リッチネス and リーチ)が、新たな構造下でのマーケティングにおいて、とりわけ重要なテーマとなりそうである。
3.顧客接点(メディア)とブランド価値の進化
それでは「リッチネス and リーチ」が可能なマーケティング環境において、クレジットカードのブランド価値はどのように進化を遂げるのか?あくまでも仮説のひとつとして【図4】に述べさせていただく。
【図4】顧客接点(メディア)とブランド価値の進化

ブランド価値は「そのブランドが選ばれる、ほかでもない理由」と解釈するとわかりやすい。(ちなみにこの場合のブランドは、現金ブランドに対する"クレジットカードブランド"として考える)顧客はブランドを顧客接点(メディア)を通じて知覚するため、まず近未来においてどうメディアが進化するかを考察する。
従来の構造において、メディアを通じたクレジットカードに対する、多くの顧客の知覚が、
<1>カードは、磁気カードである。
<2>やや高額消費で有店舗型であれば、加盟店である可能性は高い。
<3>明細は郵送で送られ、カード種別ごとに同封される情報が異なる。
<4>デスクへの問い合わせなどは、ヒトか自動音声で受け付けてもらえる。
といったことであるとすれば、その知覚から類推されるブランド価値は「ペイメントorコンシェルジュ」であるように思われる。リーチ or リッチネスの従来の構造下において、一般カードに近づくほど、よりペイメントが知覚され、プレミアムカードに近づくほど、よりコンシェルジュが知覚されやすかったように思われる。
それでは新たな構造において、メディアはどのように進化しそうであるか?主な4つのメディアについて考えていく。
<1>カードメディア
カードメディアは「ケータイand ICカード」に変わることは、確実な状況にある。この進化からすべてが始まる。
<2>加盟店メディア
おさいふケータイと利用できる店舗の拡大に伴い、習慣消費に関わる加盟店のプレゼンスが高まる。またケータイ内でのEC市場の伸びも顕著であり、無店舗型の加盟店のプレゼンスもより一層高まる。
<3>明細書メディア
生活者の決済習慣がケータイを通じて行われることから、明細書閲覧もケータイで済ませたいニーズが高まる。郵送では一方通行セグメント型の情報提供にとどまったが、ケータイをはじめとする双方向型メディアでは、明細に掲載された利用データに呼応した「リスティング広告型の情報提供」が主流となりそうである。これはアマゾンのレコメンド機能の考え方を継承するもので、生活者にとってはクレジットカードを自律的に利用することで、明細書付近に表示されるリスティング広告情報を自らの趣向にあった「個客経験」へと導くことができる。加盟店にとっては、比較的安価で送客率の高い広告のひとつとなりうる。カード会社にとっては利用促進と新たな広告収入につながる。
<4>デスクメディア
デスクにかかる人件費と応対クオリティのトレードオフ。従来の構造下では応対クオリティの高さは、プレミアムカードのような希少性に依存せざるをえない現実が存在した。ここでは極めて有能なコンシェルジュ的な応対が行われ、キャラクターとしての絶対価値を提供している。このことを改めて、新たな構造から見直すと、こうしたコンシェルジュ的キャラクターもリッチネスの多様性を体現する上での「選択肢のひとつ」として整理できそうである。特にプレミアムカードでのリアルキャラクターは残りつつ、その一方で全カードにおいて、温かみのあるバーチャルキャラクターという選択肢が、比較的ローコストで生成できそうである。【図5】にその概念を示した。
【図5】デスクメディアの進化形「バーチャルパーソナリティ」の概念
まず次世代に近づくほど、ケータイによる行為完結欲求と自律的な共創欲求がニーズとして高まる。そしてITと生命技術に代表されるシーズが、その受け皿となる。バーチャルパーソナリティは?キャラクター設定の自律性、?情報受発信やデスク業務の際のコミュニケーション機能、?利用状況に応じた学習・成長機能という3つの特性を有する。「たまごっちプラス」などを輩出しているゲームの世界では、すでに内包されている特性である。
以上のメディアの進化を踏まえると、クレジットカードはケータイと融合し、習慣消費的な利用シーン・利用データを踏まえた個客経験・自律的なパーソナリティの共創を繰り返しながら、多様な生活者にとって、より身近な存在として知覚されそうである。そうした知覚から類推される近未来のブランド価値は「ペイメントor コンシェルジュ」から進化を遂げた「パーソナルライフ・パートナー」ということになるかもしれない。
◎執筆:ジェイコンサルティング代表 桑畑 穣太郎【月刊金融ジャーナル 2006年1月号掲載】
ライフパートナー化するカード ITで進む次世代マーケティング【月刊金融ジャーナル 2006年1月号掲載】


