銀行における粗品は、新規口座開設の際の「お礼」として渡されることが多い。また前提として、品物に過分なコストはかけられない。古くは貯金箱に始まり、日用品、キャラクターグッズなど時代とともにその進化を遂げてきた。これからの時代、どのような粗品が顧客満足に貢献できそうなのか?ここでは、顧客満足の観点から、粗品の効用について考える。
◆粗品は「リレーションシップバンク」の出発点
粗品は「顧客が銀行の姿勢やセンスを感じる出発点」と言えそうである。ささやかな品物ではあるが、粗品に込められたメッセージは、顧客と銀行の付き合い方に少なからず影響しそうである。
そこで粗品の具体的な可能性を探る前に、顧客は銀行にどのような根源的なメッセージを期待しているかを改めて確かめてみる。
(1) 安全である
(2) 預金が確実に増えそうである
(3) 好ましい意外性がある
などであろう。以下、その期待についてである。
(1)安全である
直接的にはペイオフ解禁が影響しているが、個人情報保護・治安の悪化・食や地球の安全など間接的な要因も寄与している。その国や地域の「安全性」を保証するインフラとして顧客に連想される銀行ほど、ますます優位性が高まる。
(2)預金が確実に増えそうである
郵便貯金に預けていれば、ほぼノーリスクで高利息が得られる時代も終わり、不確実性のなか、自己責任で資産運用を行う時代が到来している。比較的高金利の定期預金が中も注目される背景には、株やファンドによるリスクを抱える一方で、リスクがかなり限定される資産を着実に増やしたいという顧客の思惑が見える。
(3)好ましい意外性がある
顧客は規制に守られている業態に対して、お役所的な連想を抱き、画一的なサービスをやむを得ず受け入れる傾向にある。銀行もおおむね、そのような業態として連想されがちであるが、実はその分、そこにチャンスが存在する。新生銀行がサロンのような店舗形態や32色の選べるカードなどで「いままでの銀行にはない独創性」で話題となっている。しかし冷静に眺めれば、前者はラグジュアリーホテルやエステサロンなどがベンチマークとなり、後者はアパレルやインテリアの世界で常識的に行われている。銀行は、他業態のサイエンスを注入することで、顧客が「好ましい意外性」と感じてくれるチャンスが多い業態といえそうである。
この3つのメッセージは、銀行事業全体で顧客に発信し続けることであるが、その出発点として「粗品」にも相応の役割を持たせることができそうである。今回は3つほどポイントを挙げながら、粗品についての可能性を探っていきたい。
1.他業態のサイエンスを注入し、定番を進化させる
貯金箱は、貯蓄促進と銀行の顔を象徴する粗品の定番であったが、最近ではあまり見かけないという声が聞かれる。電子マネーの波もあるが、硬貨が完全に要らなくなるほどに至ってはおらず、しばらくは貯金箱も安泰と思われる。インセンティブを考える際には、銀行業という本業との関わりがあるものを検討することが、まずは常套手段である。
インセンティブにおいては他の業態との競争関係を回避することができることと本業自体へのブランド価値に貢献することが理由として挙げられる。そのような中、貯金箱は古くて新しい粗品であると思われる。ただし時代に合った進化が求められる。この点が非常に重要である。
従来の貯金箱は、豚やネズミなどの動物を模したものか、ディズニーやスヌーピーなどのキャラクターを模したものが多いようである。しかし、貯金箱を「インテリア雑貨」と捉えると好ましい意外性が生まれる。「素材×形状×デザイン」の掛け合わせをヒントにすると可能性が見えてくる。
<素材>
金属だけが貯金箱の素材ではない。木・再生プラスチック・皮・ガラスなどインテリア雑貨をみれば、バラエティに富んでいる。
<形状>
動物やキャラクターを模したものではない。天体を模してもよいし、シンプルな形状にしてリビング空間にさりげなく溶けこませる設計も可能である。
<デザイン>
携帯電話でも、色や模様にも多くの選択肢があるように貯金箱がそうであってもよい。また貯金箱は、コレクションアイテムとしての性格も持ち合わせているので、年毎に新作をリリースすることも考えられる。
2.安全な銀行を連想させる
各方面で安全神話が崩壊しているなか、「安全」を連想させることは、顧客ロイヤルティに少なからず好影響を与える。そこで逆に日常に潜むさまざまな危険について考えてみると粗品アイテムの可能性が広がる。例えば「携帯電話ののぞき見防止フィルム」をプレゼントすれば、その銀行の個人情報保護に対する姿勢を伝えることができる。また「痴漢を撃退する防犯グッズ」や「花粉症対策用マスク」なども、身の安全を思いやる姿勢をさりげなく伝えることができそうである。
確かに安全性の本質は財務上の格付けにあるが、一定の格付けを得ている銀行が、粗品においても、その自信を示すことで顧客にも好感される度合いが高まる。
3.エリアを飛び越える、好ましい意外性
地域密着型のリレーションシップバンクを追求するあまり、エリア発想の枠を超えられないケースも存在するようである。しかし粗品選定においては、エリア外から珍しいお土産を顧客に届けるような感覚が有効に働きそうである。
例えば、南⇔北、地方⇔中央、国内⇔海外という発想で、沖縄の銀行では北海道の民芸雑貨を贈る。東京の銀行では地方の特産品をプレゼントする。ある国内の銀行では韓流アクセサリーをプレゼントする。といった具合に粗品選定を行ってみる。もちろん粗品だけでなく城南信用金庫が行っているような懸賞付き預金の懸賞アイテムを選定する際も、同様の発想を用いることができる。粗品から懸賞になる分、内容をグレードアップさせればよいのである。
◆メッセージという無形の魅力
花束にメッセージを添えて贈るように、大切なお客様にその銀行らしいメッセージを添えて粗品をお贈りできれば、単に品物を渡されるよりもはるかに顧客には好感される。先ほどご紹介した新生銀行の32色の選べるカードにしても、単に選べるというだけでは終わっていない。
「Color your life」(人生にいろどりを)
そこには新生銀行なりのメッセージが込められており、32色のひとつひとつにストーリーも記されている。顧客は自分の選んだ色を通じて、Color your lifeを実感できるようになっている。それはカードの色だけではなく、金融商品のバリエーション、サービスの先進性、店舗の雰囲気、封筒のカラーにまで一貫して表れている。粗品は、マーケティングにおいて販促アイテムのひとつとして位置づけられる(図)。
【図】「粗品」のマーケティング上の位置づけ
よって金融商品と粗品は別物(新聞でいえば、新聞本紙と粗品としての洗剤)という捉え方自体、モノがあふれる成熟社会になるほど、顧客に必然性を感じにくくさせてしまう。表面的なインセンティブではなかなか動かない、現代の顧客には「銀行そのものの姿勢やセンス」を表明する贈り物が求められているようである。
◆最後に「粗品」という呼び方でよいかを確認
粗品という言葉に、謙譲の美徳を感じる顧客も多いが、その一方で「つまらないもの」という連想が先行する顧客も存在するようである。ターゲットとする顧客層や実際に提供する品物によっては「粗品」という呼び方を一度疑ったほうがよい場面もありそうである。
「ウェルカムギフト」「ささやかな贈り物」といった別の呼び方にすることで、よい結果につながることもあるかもしれない。
顧客満足を細部まで究める工夫が大切なことは、金融商品でも粗品でも同じであるように思われる。
◎執筆:ジェイコンサルティング代表 桑畑 穣太郎【月刊金融ジャーナル2005年10月号掲載】


