■今後、激変する人口の「量」と「質」
日本の人口減少は、避けられない現実である。そこで本稿では、人口減少時代に求められるビジネス発想とは何か。また、人口増加時代との根本的な違いとは何かについて言及したい。
具体的にはまず、「量の変化」(半世紀で4,000万人の人口減少)が挙げられる。
政策研究大学院大学の藤正巖教授の人口推計では、2050年の日本人人口は8,480万人と、2000年に比べて4,070万人、32.4%減少すると予測されている。ちなみに、1950年の人口は8,280万人であった。つまり日本は、2000年までの半世紀で人口が5割以上増加し、これからの半世紀でほぼ同数の人口減少を経験することになる。
次に挙げられるのは、「質の変化」(世帯形態・雇用形態の多様化)である。
人口統計上、「夫婦と子供からなる世帯」を「標準世帯」と言うが、その世帯数は1990年をピークに減少に転じた。逆に、増加基調にあるのは「単独世帯」「夫婦のみ世帯」である。2000年現在でも、標準世帯が全世帯に占める割合は3分の1にも満たない。もはや、標準世帯は標準ではなく、「単なるセグメントの1つ」にすぎなくなる。
さらに、世帯形態だけでなく、雇用形態も多様化する一方である。正社員比率は減少し、派遣社員・パートタイマーなどは、すでに企業規模や業種を問わずに浸透している。
■より重要視される「利益重視」「付加価値重視」
人口が減少するだけではなく、それを構成する「質」も変化する。この点が、人口減少時代と人口増加時代との根本的な違いであろう。
すなわち、人口増加時代のキーワードが「広く・薄く・一様に」であったとすれば、人口減少時代のキーワードは「狭く・濃く・多様に」である。
以前の「広く・薄く・一様に」については、当時マス層であった「標準世帯」に向けた自動車や家電製品などが、豊富な労働力と大量生産・消費モデルによって「広く普及」した状況を思い出せば、想像するのは容易なことであろう。人口の「質」(需要の質)が限りなく均一で、人口の「量」(需要の量)も飛躍的に増えたので、規模の経済(スケールメリット)が最大限に効いたのである。
一方、人口減少時代は、「狭く・濃く・多様に」ならざるを得ない。人口のパイ自体が少なくなり、世帯形態・雇用形態が多様化し、消費や余暇の過ごし方にも熟達した生活者は、自分らしい密度の濃いライフスタイルを求めるからである。
こうなると規模の経済は効きにくい。経営自体をスリム化し、想定したターゲットに確実に提供価値と利益を高めるビジネスモデルが機能しないと、経営が成立しなくなる。これまで以上に「利益重視」「付加価値重視」でいかないと淘汰されるのだ。
そこで、次の3つのキーワードに基づいて、「人口減少時代のビジネス発想」について、今少し言及したい。
■この3つのキーワードが、「ビジネス発想」の源泉になる。
1.狭く(スリム化と絞り込み)
スケールメリットだけに傾注した、時代遅れの生産設備・販売拠点や、終身雇用・年功制とともに、カイシャの求心力となった自前のオフィス・福利厚生施設は、人口減少時代においては、固定資産という名の「固定負債」へと変容する。
人口減少は、消費市場だけでなく、労働市場においても、労働力人口(特に生産年齢人口)の減少と雇用形態の多様化を加速させる。この時代では、「固定」に有するものについて、ヒトも設備も必要最小限にとどめ、あとは流動的に賄うことで、競争優位と利益を確保することが求められる。
その場合、絞られたヒトや設備は、競争優位の源泉であるから、待遇や投資の質がこれまで以上に問われることとなる。また、限られた経営資源の中で、自らの強みを発揮できる事業領域やターゲット、ビジネスパートナーも厳選することになろう。
決して縮小均衡まっしぐらではなく、自社にとっての資産と負債を見極め、強みを持続し、身の丈にあった事業規模を追求するということである。
2.濃く(ブランド価値とロイヤルティ)
ブランド価値とは、財やサービスの認知・購入・利用を通じて対象顧客にもたらされる「ほかでは味わえない気持ちよさ」という経験である。その経験が、顧客ロイヤルティを発生させ、財やサービスの価格プレミアムや継続購入を後押しし、企業に安定した利益基盤をもたらすのである。
もっとも、事業領域やターゲットを絞り込んだところで、競争優位と顧客ロイヤルティに直結する「独自の価値」がなければ、価格競争に巻き込まれ、利益を上げることはできない。人口の「質」の変化で触れたとおり、ライフスタイルの「濃さ」を増す顧客には、相応のブランド価値を提供しないと、対価も利益も得られないのである。
加えてロイヤルティは、顧客に対してだけでなく、従業員に対しても当てはまる概念である。先程、「絞られた人材には待遇の質が求められる」と述べたが、ここで言う「待遇」とは、金銭的な側面だけを指しているのではない。ブランド価値を提供する企業の従業員には、自信と誇り・企業文化というメリットがもたらされ、そこには従業員ロイヤルティが発生するからである。サウスウェスト航空やオリエンタルランド(ディズニーリゾートを経営する企業)が代表的であろう。
ブランド価値が企業文化として浸透すれば、固定的なコア人材だけでなく、流動的な人材までも「一体」となって、労働の「濃さ」を高めることができる。「あなたが賃金が安いから、言われたことだけやればよい」という扱いではなく、契約社員やアルバイトであっても労働を通じた自己実現の機会を提供することが、パフォーマンスの質を高め、労働生産性の向上に寄与するのである。
そういった意味で「濃く」は、労働者としての自分と、生活者としての自分の両方を豊かにする社会環境に大きく貢献する。
3.多様に(ポートフォリオ経営とマス・カスタマイゼーション)
「ポートフォリオ経営」とは、複数の展開事業において、最も有利な分散投資の選択を期すことであり、その前提には分散投資に耐えうる資本力にある。中小規模の企業の場合は、「狭く・濃く」だけでも十分にやっていけるのだが、大企業として存続したければ、「多様に」にも対応できないと、その地位が危うい。
先に述べたブランド価値との関連で言えば、「狭く・濃く」が個々の商品・サービスブランドであり、「多様に」は複数のブランドでポートフォリオを組むブランドマネジメントに当たる。
とは言え、「狭く・濃く・多様に」を究めようとすると、顧客一人ひとりのニーズにきめ細かく対応し、すべての顧客の要求に完全に応えようとするため膨大なコストと時間がかかる。
そこで、企業側である程度選択肢を絞り、それぞれの選択肢からの組み合わせで、それぞれの顧客のニーズに近いものを提供していく。つまり、「マス・カスタマイゼーション」による多様化創出が、スケールメリットと、ブランド価値を両立させる現実的な手法となるであろう。
◎執筆:ジェイコンサルティング代表 桑畑 穣太郎【先見経済 2005年1月号掲載】


