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クレジットカードに期待されるコーポレートブランド経営【月刊金融ジャーナル 2004年7月号掲載】


狭義のブランド論では、ブランドを「顧客との約束」と定義し、ブランドの中身について幾多の用語によって説明がなされる。だが依然として「ブランドがどう利益に結びつくのか?」という本質に十分なアプローチがなされているとは思えない。本稿では、ブランドがどう利益に結びつくのか?を再確認し、その上でクレジットカードにおけるブランド戦略視点を探る。


1.ブランドではなく『ブランド価値』とは?

ブランドは「顧客との約束」という定義でよいのだが、そうであれば全ての商品・サービスは何らかの約束を果たしているわけで、全てブランドといえることになる。しかし私たちがブランドと賞賛するニュアンスは、もう少し特別な響きがある。何らかの価値を持ったブランド、つまり『ブランド価値』である。

例えば、スターバックスコーヒーが1996年に日本に上陸した際、ああいったタイプのコーヒーチェーンは日本に存在しなかった。ドリップ方式ではなくエスプレッソベースのコーヒー、喫煙が常識だった喫茶店では考えられなかったコーヒーの香り重視の禁煙環境、オリジナルのBGM、洒落たカップ、コーヒーにまつわるオリジナルグッズ、洗練された店舗環境、1杯300円台というこれまでにない価格帯、コーヒーを愛する"感じの良い"店員など、当時全てが新しかった。

こうしたほかではありえない要素が総合されたものが『ブランド価値』である。ブランド価値とは『ほかではありえない提供価値』である。よって広告などによるブランド認知は「顧客のアタマに広がる独自のイメージ形成」という意味合いなので、ブランド価値を構成する1つの要素にすぎない。

ちなみに、最近スターバックスコーヒーが既存店で苦しんでいるのは、競合にスターバックスが模倣されるなか、スターバックス自らも急速な多店舗展開をしたため、相対的に「ほかではありえない」というブランド価値を喪失したことに起因している。


2.ブランド価値は、投資効率で評価される

さて、ブランド価値はどう利益に貢献するのか?

昨今、ブランド価値評価をめぐっては様々な指標が存在し、株式時価総額から有形資産を差し引いた無形資産をベースに評価をするケースなどが見受けられる。そうした評価をベースにしたブランド価値ランキングをみると、結局は時価総額ランキングに登場する顔ぶれと大して変わることはないという指摘も一部であがっている。

ブランド価値は、株の値動きというよりは、地に足のついた「経営・マーケティングの本質」から(図1)評価できるように思われる。


【図1】ブランド価値の評価視点200407_01a.gifまずマーケティング視点では「利益=売上―コスト」となるので、ブランド価値は利益にどれだけ貢献したかということで評価される。

スターバックスコーヒーの例でいえば、顧客にとっては同じコーヒーでも割高の対価を支払って継続購入したくなる価値である。この場合、ブランド価値は平均的なコーヒー1杯の価格より割高な分(売上プレミアム)貢献しているといえる。なお売上プレミアムは、価格だけでなく通常に比べて購入アイテムや購入頻度が多くなることも含んだ概念なので、価格プレミアムだけに限定されない。

さらにスターバックスは、マクドナルドより時給が多少低くても『スターバックスが好きなので働きたい』というやる気に満ちたアルバイトが当時多く、結果的に低コストで良質な労働力を得た。この場合、平均的なアルバイト時給より割安な分(コストプレミアム)貢献しているといえる。

なおコストプレミアムも、単なる時給概念だけでなく、通常より従業員の定着率が高いことや募集をしなくてもやる気のある良質な人材が集まるといった包括的な概念を含んでいる。

これが中長期的な経営視点になると「継続的なブランド価値は、どの程度のブランド投資によって具現化されているか?」という投資効率で評価されるので『ブランド資産価値』という概念が期待される。例えばディズニーリゾートは、まずアトラクションやホテル建設といった投資ありきの業態だが、中長期でみれば確実に継続した利益に貢献している。

しかし、リゾート開発の失敗例をみれば、オープン当初こそ一時的に売上があがっても中長期では投資を回収できず破綻に追い込まれ、同時にブランド価値も消滅している事実が存在する。

従来の経営分析の延長上にブランド価値評価を置けば、「ブランドに関わる・・・」という範囲の特定化も比較的容易なように思われる。つまり「ほかではありえない差別化」に関わるコストや投資と、その事業にとって当然とされるコストや投資とは分けて考える経営視点を持つこと。この経営視点が思ったほど浸透していないことが、多くの業種においてブランド認知だけに過度に傾倒した投資効率の悪いブランド戦略を招く結果となっている。


3.クレジットカードにおける3つのブランド戦略視点

クレジットカードビジネスにおいては、やはり『加盟店手数料』が最も本業に近く他業種にはない利益源となると思われる。本稿では加盟店手数料の強化に注目した3つのブランド戦略視点について話をすすめたい。

(1) 基本機能の圧倒的強化
(2) 独自経験の圧倒的強化
(3) 個客経験の圧倒的強化


(1)基本機能の圧倒的強化

クレジットカードビジネスは、装置産業である。そこには膨大な投資を要したが、その結果、自動的に利益が上がるビジネスシステムを構築した。このシステムの更なる拡充について、より深耕を図ることが、ブランド価値向上による利益貢献につながる。

顧客にとって、クレジットカードは主にセキュリティ・ID機能と決済機能を保証してくれる。よって安全・安心を圧倒的に強化すれば、ブランド価値も高まる。食品業界においては「独自規格のトレーサビリティシステム」、自動車業界でいえばトヨタの安全衝突システム「GOA」などが代表例であろうか。

セキュリティや犯罪防止は、クレジットカード業界において「当たり前のこと」であるが、もし同業他社に先駆けて、顧客のセキュリティ保証に貢献する何らかの取り組みがなされていれば、それを上手に伝達することにコストをかけるだけでもブランド価値は向上し、継続的な顧客ロイヤルティを獲得して、利益の安定化を図ることにつながる。

決済機能においてもさまざまな工夫がなされているが、そうした延長上で、よりターゲット志向の「ユビキタス決済システム」によってほかにはない価値を具現化し、その事実を確実に伝達することが肝要となるであろう。


(2)独自経験の圧倒的強化

「JCBのディズニーリゾートにおけるオフィシャルカード戦略が代表例である」といえば直観的に理解できるであろう。顧客にとってカードの利用価値は、使える加盟店数で決まるのだが、この部分はJCB・VISA・Masterに収斂された状況であり、もはや決着がついている。となると残るは、そのカードならではの「独自経験」である。

ではなぜJCBのオフィシャルカード戦略は成功したのか?

実はこの点をよく分析すれば「独自経験」によるブランド戦略視点は見えてくる。成功要因を一言で言えば、ブランド力のある他人資本と共存共栄しつつ自社の顧客に有利な独自経験を提供したことにある。ディズニーランド開園からかなりの間、JCBは唯一の決済カードであったし、ポイントプログラムで唯一ディズニーキャラクターと交換できたのもJCBだけであった。新規会員獲得でも、このブランド資産は有利に働いている。

では、カード会社が自己資本で独自経験を提供しようとするとどうなるか?チケット・トラベル・通販などの事業で実際になされているようだが、各々の事業の競争優位性は、商品の調達力や販売接点の投資効率など、クレジットカードシステムや顧客基盤とは離れた「その事業固有の資源の開発・調達」がカギとなるため、会員サービスとしては貢献しても利益が上がりにくく、その結果、ブランド価値も事業も継続しにくい状況に追い込まれやすくなるようである。

そうした学習を踏まえると、カード事業も『ブランド力のある重点加盟店』という他人資本と共存共栄することを本格的に考える段階に入りつつある。割引・優待といった販促レベルから、もう一歩深く『事業レベル』に入り込んだ本質的なブランド戦略への進化である。有力な他人資本と深く連携して、オリジナル商品(特にポイント交換時)の共同開発及び独占調達や人気の座席・部屋などの優先予約といった独自経験を自社顧客に恒常的に提供できる環境を整備し、ブランド価値を構造的に高める戦略視点が求められるのではないだろうか。

コンビニエンスストアがメーカーと組んで共同開発や独占調達を行うようにカード会社もコンビニエンスストアのような役割を果たせそうに思える。これまでとは違う投資となるだろうが、毎年かかる億単位の広告費や販促費をよく吟味して捻出し直せば、かなりの独自経験を提供できる効率の良いブランド投資となるように思える。


(3)個客経験の圧倒的強化

クレジットカードビジネスは、データベースマーケティングという側面を持っている。よってセグメントDM・誕生月サービス・専用デスクなど、伝統的に行われている個客経験も数多い。しかし、まだ進化の余地があるように思われる。

例えば、個客のプロフィールや利用実績に合わせて、個客にふさわしい加盟店を自動的に推薦するシステムをインターネット上で行うといったことである。アマゾンが書籍で行っているシステムをそのまま加盟店に置き換えると思っても良い。場合によってはアマゾンと連携しても良いかもしれない。

カード事業の究極の強みは「決済システムをベースにしたリアルタイムの業種横断的データベースマーケティングシステム」である。これは他業種にはないし、カード事業はそのためのブランド投資が相当先行している。もっと回収できても良いのではないか。

つまり単なるカスタマイズにとどまらない、システム化された「マス・カスタマイズ」を他業種がゼロから立ち上げるのに比べれば、はるかに低い投資額で構築できる位置にいるように思える。


■コアコンピタンスに起因しないブランド価値は存在しない

これが多くの業種を通じて証明されるブランド価値の真実である。

広告は、コアコンピタンスに基づくブランド価値を魅力的に増幅する機能は持っているが、広告自らがブランド価値をゼロから創出するほどの力は持っていない。そこを誤解してはいけない。一時的なブランド認知の獲得だけでは『砂上の楼閣』に終わる。ただし確固たる提供価値と結びついた広告ならば、その効果を存分に発揮できる。

「慣例化した予算構造から、ほかにはないブランド投資構造へ、どこまでパラダイム転換できるか?」ブランド戦略は、シンプルだが奥の深い経営判断が常に求められる分野である。


◎執筆:ジェイコンサルティング代表 桑畑 穣太郎【月刊金融ジャーナル 2004年7月号掲載】


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